静寂の街明かり

 夜に吸い込まれてゆく、無表情な街並み。
 それは、まるで停止した思考を示すかの様だ。


 愛と夢と音楽とを心のポケットに探りながら、錆ついた世界を通り過ぎてゆく。
 愛か金かのシーソーゲーム。
 静まり返った街通りには、その闘いの傷跡が寂しく色付いている。
 暮らしは緩やかに傾きながら。

 街では、夜な夜な人々の孤独な叫びが生まれ、僕はどんな言葉を持つべきか、この胸に問い掛け続けている。
 言葉で人の心を癒せることも多いけれど、たった一つの伝えたい気持ちを言葉で探り当てることは、正確さを求める程に難しくて。
 だけど、僕はこの心に何かを感じる限り、やはり言葉を探し続ける定めみたいだ。

 街は死にゆく悲しみの色に染まってゆくよ。
 だけど、僕らは本当に所有すべきものに基づいて暮らし、今存在していると感じている限界を見つめているのだろうか。僕には、そうは思えないことが多くて。
 きっと、今は無駄な価値観を手放す時なのだと思う。誰かの人生に、何かしらの問題が起きている時、たぶん全てはそこに行き着くような気がするよ。
 人はみな孤独だから、愛か金かのシーソーゲームは終わることがない。そして、それは結局、人間の不完全さへの恐れみたいなものに繋がっている様に思える。人間の行動の裏に、いつも潜んでいるであろう恐れに直結して、思考は生まれ続けているんじゃないかって、そう思えるんだ。それを生存本能と呼ぶのだろう。
 そして、愛という思考を生み出す障害となるのだろう。

 その葛藤の中で、恐れに捕われていく時、金に執着していくような気がする。そして、その段階を越えると、愛や夢に目覚めるように思う。


 街の沈黙を、僕はただじっと見つめ続けている。
 恐怖に埋もれていく、生命の葛藤が、この現実なのだろう。
 狂おしく叫ぶ、静寂の街明かりを辿りながら、僕は形のない心を弄ぶ様に、言葉を一つ一つ並べ替えてゆくよ。