白昼の十字架
白昼の十字架
この街に、どうか本物の希望が生まれますように
二〇一〇年 クリスマスへの祈り
街通りを行く時、穏やかさを湛えた筈の日常とは裏腹に、僕の心は過酷さを背負っていた。
僕は、何かに裁かれてゆく様だ。
理想を口にすれば、偽善だと叩かれ、誰かとほんの少し心を許し合って、寂しさを分け合おうと歩み寄る心には、不躾な欲望がつけ込むものさ。
僕は、小さくため息を洩らし、身をかがめる様にして歩調を少し早めた。
僕は、この人生の中で誰一人として心の中に受け入れることが出来ないのだろうか。
全ては奪われる為に存在するかの様な世界で。
この暮らしの中で、人々はいつも争い続ける。そして、自分にとって厄介なものを排除し、殺しながら生きている。
真の自由や平和を叫んでみるけれど、情熱がいつも街に呪われながら、腐った連中の笑いの種に蔑まされている。
僕は何も信じない。
上っ面な見せかけの友情なんて、いつも出世の名の下に引き裂かれていくばかりさ。
だけど僕は愛したい。
全てを否定してしまう前に。
自分の生きるその意味を、捨て去るわけにはいかないのだから。
なあ、どうかこの祈りに応えておくれよ。
僕は、いつも寂しさと一人ぼっちで待ちぼうけを食った気持ちで暮らした。
真実を誰がくれるわけでもない街の中で。
そして、僕はいつも言葉を喉元に呑み込む様なためらいを感じ続けた。
僕の言葉を排除したがる群衆の念が、怒声を挙げながら、僕を十字架に吊し上げたがり、心の自由に対しての威嚇が向けられているかの様だった。
真実なんて、この街じゃ何も役に立ちはしないのだと、その念は唸りながら嘆いているみたいだった。
人が人を殺していく。
生存競争の戦いの内に。
そこでは、理想を口にすれば、偽善的だと言わんばかりの扱いを受けるんだ。
そして僕は、自分を犠牲にしてまでも愛を訴える人間の姿に出会ったことがなかった。
いい人なんて、それはどこにでもいるだろう。
だが、自分に都合のいい人間関係を並べ、これが善でこれが悪と区別していく世界には、僕はもう辟易していて、希望の意味さえ忘れ去ってしまいそうさ。
だから、僕は生きる為に強く立ち向かわなくちゃならないんだ。
僕を殺そうとする、この街の呪いの念に。
白昼の街通りでは、本当のことなんて目に映らないだろう。
だから、僕はこの祈りの中で真実を唱える。
全ての呪いが解けるように。
擦れ違う人々は、無意識の中で魂の葛藤を続ける。
僕は、それをあまりにも感じ過ぎる人間なのだろう。
この街の希望とは、人々が互いに誠実さの中で、まず自分に正直に生きることだと思う。
それは勿論、自分の欲望のままに刹那的快楽を讃美することなんかじゃない。
下手な自由に踊った狂気が、世界を腐敗させてしまう前に、このメロディーをお前の魂に共鳴させたいんだ。
それが僕の祈りだ。
日常は何だか苦しくなっていく。
どんな出来事も、やがては嘘という答えに辿り着く為に存在しているかの様だ。
本当に馬鹿馬鹿しくなることばかりさ。
真っ直ぐな心が欲しい。
純粋な気持ちで触れ合っていたい。
神になることを諦めた人間が、悪魔に魂を売り払い、凶悪さに染まっていくよ。
もうすぐ街はクリスマスだ。
十字架の意味することを感じて生まれる感動が、聖なる夜にどれだけ存在するのだろう。
人々は徐々に卑屈になっていく。
擦れ違う人々の中には、胸の奥深くに、何かしらけた殺気の様なものを宿していることを感じさせる。
そして、その殺気を真実の前に告白し、愛へと昇華しようとする気高き魂の息吹きが感じられないんだ。それが、この街の混沌とした日常の正体だと僕は思う。
通りのクラクションの悲鳴が、胸に突き刺さる訳がそこに眠っているんだ。
恋人達はクリスマスの夜に愛を誓い合い、素敵な夢を見る。
だけど、この街じゃ可笑しな駆け引きばかりがやたらに目に付いて、やるせない気持ちさ。
高価な宝石で愛を約束したり、させたり、自分が相手に望む誠実さばかりが陽気に街通りに色付き、踊っているよ。
そして、大抵期待は裏切られ、初めから尊敬などなかった二人の関係が脆く崩れ、しらけ冷えていくのだろう。
人を愛するって何なんだ。
自分を愛する為の道具に、恋人をしてしまう悲しさを僕は思う。
僕は、白昼の十字架を背負いながら、街通りに虚しさを覚え続けた。
クリスマスが毎年当たり前のように訪れ、祝える平和を睨みながら。