公開リハーサル

 もうじき巨大台風上陸の天気予報が出ていた土曜日。
 夕方に差し掛かったきららカフェで、フレンチトーストのライブリハーサルが続いていた。



 ささやかなミニライブの為に選んだセットリストを演奏していく。
 今月の終わり頃、ピアノの彼女のやっている音楽教室で開かれるホームコンサートに、フレンチトーストとして僕も出演予定だった。
 三曲中、一曲は一度リハーサルをしたことがあったけれど、二曲は初めて合わせてみるという感じで、本当に雰囲気を感じる程度の仕上がりといった演奏の完成度だった。


 カフェに着いた時、丁度一組の親子連れの姿があった。
 ミニチュアダックスを二匹連れていて、昨日どうやらフレンチトーストのリハーサルがあることをカフェ側から聞いて知っていてくれていたようだった。
 少し後からカフェに顔を出したピアノの彼女と合流後、一曲だけライブを聴いて親子は帰って行った。
 中二だと話しの中で聞いた少女は、塾通いの日で、時間に追われていた。
 ライブが聴きたいからと、わざわざカフェにやって来てくれていて、だけど時間がないので一曲だけ聴かせて欲しいとのリクエストをもらった。
僕は、その一組の親子へのライブの一曲にTODAYを選んだ。
 演奏中、飼い犬二匹も聴いていてくれている様子が、よく伝わって来ていた。
 人間に可愛がられていたせいなのか、音楽に対する感性を強く感じさせる二匹のように僕は感じていた。
 ペットなのだけど、どこかやっぱり人間に近い心を宿すスピリットのように思えていた。
 演奏前は、初対面だし、どことなく硬い表情を浮かべているように見えた少女だったけれど、歌が終わると可愛い笑顔を見せてくれていた。
 カフェでのライブは僕に、そんな心の輪が広がり、毎日にハーモニーを奏で上げていくような幸せを感じさせてくれていた。
 それは、決してお金では得られない貴重な対価だと、僕は思っていて、そんな出会いがミュージシャンとして本当にありがたいものだと感じていた。
 少女はバイオリンを習っているそうで、一緒にどうかと大人達が振ると、とてもキュートにはにかみ、照れ笑いをしていた。



 その親子連れが帰ってから、暫く、夕刻の時の流れに運ばれながらのリハーサルを楽しんでいた。
 さらば資本主義という曲を演奏するが、録画しておいたモニターを後で観てみると、ピアノとギターの音がぶつかるような印象を受けた。
 結局、本番当日まで時間もあまりないし、この曲は、僕のギターとマスターのカホンとで演奏しようという話に落ち着くこととなった。
 ピアノの彼女は、随分忙しくしていて、打ち込みの仕事や他の演奏等あり、肩の荷が下りたと本音混じりの冗談を言っていた。
 もう一曲、民衆の声はLOVE LOVE LOVEというロックナンバーを用意していたのだけれど、この曲は問題なさそうだった。



 土曜日の夕方。
 きららカフェでの、フレンチトーストの公開リハーサルライブは、僕の人生の中でのワンシーンとして、心満ち足りてゆくような時間を運んで来てくれていた。