太陽傾くゴーストタウン

 発達した文明が築き上げようとしていた理想社会のドラマがそこには無数に存在していた。

 果されるべき約束を夢見た人々は、出会いを求め心触れ合う優しさの温もりを誰もが信じたいと暮らしを愛おしんでいた。
 その行為は、一種の現実社会からの逃避の様でもあり、人々は自分の人生への要求を他者に期待する形で、心はやがて疲労し、人間関係は困難の色を深く滲ませていった。
 心が傷つくその訳を、俺達はひたすらに奏でる奴隷のリズムの中で探し続け、陽の当たる場所に這い出そうと必死に暮らす囚人みたいだった。


 俺はある夜、20代の女の悲しみを抱きしめ眠った。
 月の光も届かぬ深い雲が空を覆い尽くす寂しい夜だった。
 俺はこの胸で安らかな寝顔を浮かべ眠る女に微笑みながら、「自由になれたらいいのにね」と小さく囁きかけた。
 女は微かに浮かべた微笑みを絶やすことなく、抱きしめた肩がとても小さくて愛しかった。
 
 そんな暮らしが続いていた頃、その社会での俺達の絆は、やがて悲しく朽ち果て、何もかもが崩壊し、街は人の悲鳴も、犬や猫や動物達の鳴き声すら聞こえてこない灰色のゴーストタウンへと姿を変貌させていった。
 暮らしが育んだ出来事に、きっと被害者も加害者も存在しなくて、ただ俺達はその絆の在り方の意味を知るには、あまりにも刺激の強い街の中で心を鈍らせ過ぎていたに違いなかったのだろう。

 無名ミュージシャンである俺は、日銭暮らしの中でずっと音楽を奏で、歌い続けてきたんだ。
 格差という貧しさに俺の情熱は熱を奪われるばかりの様で、人の心を思えば、その全てが焼け石に水だと感じていた。
 心を重ね眠った女は、もう俺の日常に姿を現すこともなく、街に暮らしていた人々と同じ様に別々の暮らしの中へと消えていった。
 人の暮らしの小さな約束達は、互いに重ね合わせ押し付け合った期待の前に儚く散り急いでゆくばかりだった。

 「自由になれたらいいのにね」

 俺はあの夜、女の寝顔に囁いた自分の言葉と共に、はっと新たなる暮らしの中へと目覚めた様だった。
 気が付けば、窓の外に広がる青空はとても眩しく輝き、風があの街の記憶を、俺の心の宇宙の何処か意識の触れぬ場所へと運び去っていくように感じていた。


 All Light
 夢の出来事であったかの様な、あの太陽傾くゴーストタウンでの暮らしよ。
 俺は別々の暮らしへと引き裂かれていった絆の訳に、これから一つ一つの叫びを歌いあげながら、偽りなき心を一人告白してゆく定めなのだろう。
 俺のシャウトが置き去られた、あの街の暮らしに小さく伝えたGoodbye