歩道橋の上の空

 秋の柔らかな陽射し降り注ぐ、月曜日の午後。
 経済破綻に傾いてゆく暮らしは、僕が持った様々な価値観に付随して、人生に背負った悲しみのその一つ一つを、無意識から意識の中へと追い込んでゆくかの様だ。


 ほがらかな表情を見ぜる季節のうつろいとは裏腹に、何か生命の危機に曝されたかの様な感覚の中で、僕は街を浮遊し歩き続けた。

 毎日約百種もの生物が滅びている地球環境の中で、僕らは暮らしに一体どんな希望の明かりを灯せばいいのだろう。
 平然と繰り返されてゆく、金と権力闘争の為の政治。
心を死滅させる様な軽率な倫理に見張られた、とても慌ただしい日常。
 僕は誰も知らない場所で正義を歌い続けてきたが、これからはどこに歩いてゆけばいいのだろう。
 殺風景な時代が僕らの心の全てならば、もう僕の願いは届きもしないだろう。だけど、それは絶対に違っているだろう。

 環境は壊され、文明は心を持たぬ様な一人歩きを続ける。
 地球環境は、僕ら人間の肉体との付き合い方にとてもよく似ている。
 精神のバランスを無視した肉体への自傷行為を繰り返していては、決して真の幸福を掴めはしないだろう。
 心が痩せてゆく文明の狂気に、僕は一人尖った心を向け、訳の分からぬ悲しみを感じ続けているんだ。
 僕のこの叫びは愚かなのだろうか。
 僕は自分の自由の為だけに、音楽に命を捧げ働いてきた訳じゃないだろう。
 僕の心の呟きは、近くを走る車の群れの放つ騒音に掻き消されるみたいに、誰の目にも止まることはない。

 歩道の脇の小さな木々には、つい先日揺れていた紅葉も、もうすっかり見られなくなったな

 文明病に蝕まれ、心を病んだ者。
 肉体を病に侵された者。
 そして、世界ではいつだって自由の名の下に、人の血が流され、絆や愛を育もうと痛切に願う群集の叫びは、権力によって消されている。
 健康に生きることが、誰かの権利を奪う暴力に傾くことだってありうる世界。
 そして、僕はただ自由や愛を幸福に歌っていたかっただけさ。


 一秒一秒、壊れてゆくかの様な世界。
 本当の自由の意味や幸福を知る為に、両極の体験を人類は旅し続けているのだろう。
 猛暑に泣いた夏の記憶も、僕らはもうすっかり、北風に向き合うことに手一杯で忘れ去ってゆく。
 僕のこのちっぽけな命の営みが、そして人々の命の営みが、誰かの微笑みを生む愛の姿で、どうか美しく時の中に刻まれますように。

 僕は胸を張り、歩道の先の歩道橋の上の綺麗な秋晴れの空を見上げた。