ささやかなデビュー戦

 ライブ前。
 楽屋代わりに座っていたカフェのテーブル。


 四月の夕暮れに、僕は演奏前の緊張感を抱え、いつものように相変わらず落ち着かない気持ちでいた。
 だけど、その感覚がいいんだと、もう一人の僕が言う。
 振り返った窓ガラスの外は、とても澄んで綺麗なトワイライト。
 僕は、まるで鏡の中を覗くかのように、ライブ開始までの緊張感の中で、僕自身との対話を続けた。








 第三者への責任の伴うライブは、かなり久しぶりのことだった。
 僕は、自分自身の再起を懸けて闘う、四十歳になったロックンローラーを演じ始めていたのかもしれない。
 ささやかなデビュー戦。
 そんな感覚でステージは静かに始まろうとしていた。
 僕は、この事に対して、周囲にあまり多くを語ってこなかったけれど、自身の抱えた葛藤や激しい創作活動から、体のバランスを崩してしまい、思うように歌えない日々を、ずっと長きに渡って過ごしてきていた。
 ライブの始まろうとしていたこのカフェには、随分よくしてもらっていて、少し甘えが効くからと思い、ギターによる弾き語りライブの予定を入れ、当日を迎えていた。
 万全でのライブでは決してなかったけれど、この日の歓びをここに。



 僕は、今年歌わなくちゃって、何故かそんな風に心の奥の声が囁くのを常に感じているようだった。
 ミニライブでいいから、少しずつ、思いを歌に込め、まっすぐに歩いていきたい。


 この場を借りて、マスターと奥様に心からありがとうの気持ちを伝えたいと思う。
 ライブを振り返りながら、映像を観ていて、まずまず良かったかなというのが、自分自身の率直な感想だ。
 店の名は、きららカフェ。
 今後も多くの幸せが、この店と訪れる全ての人の人生にやって来ますように。


 そして、温かくライブを聴いてくれたモンパルナスの皆さん。
 どうも、ありがとう。