民衆のCHRISTMAS

 国会議事堂を、手を繋ぎ包囲する民衆。



 いつもならばクリスマスがもうすぐやって来ようかという楽しい筈の季節。
 年末の忙しなさやドキドキ、ワクワク感が入り混じり、全国の各都市はイルミネーションの彩りで賑わう。
 デパートの宝石店前では、ジュエリーを彼女や妻に贈る男達が、自分のふところ事情について考えながら、表情に暗い影を落とす。
そんな男達とは全く対照的に、この時ばかりはそうなのかもしれないが、快活で華やかな表情を湛え、まるで狩りをする獰猛な肉食獣がその瞳を輝かせるように、女達が意気揚々としてお目当てにあり着こうとはしゃぎ声を挙げている以前に見たシーンが、僕の心の中蘇る。
 近年、個人的には資本主義かぶれから卒業してきたようで、すっかりデパートに通うことの少なくなった僕は、豊かな繁栄の時代に、そっと暫く思いを馳せた。
 そして、その想い出の旅の空気感とはまるで裏腹な現実を同時に、インターネットに接続したノートパソコンの画面の中見つめている。
 ツイキャスで追う国会前の人々は、生活苦を強いらせれる形で、いても立ってもいられず、この場所に集結していた。


 議事堂内は不穏な政治の動きを滲ませ、自民党はもはや戦中のファシズムに逆行し、世論を完全に政治から切り捨てへと露骨さを露わにしている。
 あの3.11から、丁度千日目のその日。
 寒空の下で、いつまでも続く民衆のシュプレヒコール


 秘密法案反対!
 原発反対!


 数万の群衆による、政府への大掛かりなデモは熱気を帯び、国の危機的状況を何とか食い止めようと、国会前を占拠するように、声の続く限り、その抗議活動は繰り広げられていた。
 老若男女。
この国の中、様々な環境に身を置く人々の願いは、ただ一つ。
 愛する家族や仲間達と、平和に暮らしていたいというささやかな幸福を叶える為。
 遠く福島から、このデモに参加しようと駆けつけた者も、きっとあっただろう。
 憲法九条を守り、平和を愛そうとする国民の数は、このデモ参加者かける何倍だっただろうか。
 権力の暴走が日増しに目立ち始め、呑気なこの国の人々もさすがに、国の異変に気付き、自分が立ち上がらなければ、現実は何も変わらないということに気付き始めていたような気がする。


 だが、テレビ局やマスコミはこぞってその事実を正確に伝えようとはせず、政治に対して、ごく危機意識の高い人だけの、マイノリティー的なデモとしてイメージ付け、抑え込もうとしていた。
 3.11以降、この国は内乱状態のまま、既に腐敗した社会正義により、暮らしは益々傾くばかりであり、生活への心理的不安が多くの国民の間で日々、膨らんでいたことだろう。
 血税を絞り取られ、原発安全神話の嘘を押し付けられ、挙げ句には放射性被ばくという重過ぎる問題に直面させられている。
 だが、国は国民なんかには知らん顔で、今以上にこれでもかと徴兵制導入へとひた走る。


 時代は、経済発展の代償を幾つも抱え、山積したそれらは、この国に生きる全ての人の心を冷たく覆う氷のように現れい出ていた。



 その日、自民党副総裁である石破茂は苛立っていた。
 国会周辺を占拠し、激しいシュプレヒコールを挙げるデモ隊が目ざわりで仕方なかったのだ。
 勿論、これは僕の推測でしかない。
 彼は、自身のブログの中で、デモ活動をテロと表現し、世論からは激しい抗議の声が噴出した。
 兵役義務を怠る者には死刑だと豪語し、現政権が如何に右寄りであるのかを、国民に対して決定的に印象付けたのもこの人物だ。
 現政権の場渡り政策について、既にそれなりのパーセンテージの国民は気付いていたに違いない。
 そんな中、急浮上した法案がこれだった。


 特定秘密保護法案。
 その言葉を聞いて、その真意が一体どこにあったのかを正確に知る者などいなかっただろう。
 それはその筈だ。
 初めから、国勢について僕ら国民の知る権利を奪う目的の為に用意された法案であることを直感的に気付いていた国民でさえ、その法案の詳細については誰も本当のことを聞かされていなかったのだから。
 絶対的権力をもって、国民をただ従わせる為の法案。
 国会運営をパントマイムのようにして言葉を取り観察すれば、物事の本質が手に取れるようだ。
 事実とは、唯一やっていることであり、政治家の口先で言う詭弁のことなどではない。


 どうか、皆騙されないで欲しい。


 僕はそう祈っていた。
 この国は戦争がしたいんだ。
 世界の支配者からの脅しなのか、自民党幹部の趣味の悪さなのか、本当のことは分からないけれど、向かっている世界はそこだろう。
 この国は、戦中の体制と、眠っていた根底の部分では何も変わらない。
 経済成長が止まれば、また戦争で儲け、社会システムを循環型にシフトさせていく努力に向かう精神性を掴むことの苦労を避けてばかりだ。
 豊かさは、僕ら人間にとっての絶対的な幸福などではなかったことに、多くの人はもうとっくに気付いている。
 そして、発展や物質的な豊かさは、多くの場合人を堕落させ怠惰にしてきたのだろう。
 簡単便利のツケが、現代の荒んだ日常なのだろう。


 人はもともとみな我がままだ。
 ましてや、苦労知らずに育ち、実力よりも学校の成績であったり、会社での業績だったり、数字だけに価値の置かれた資本主義社会の中では、尚更人の心はルーズになっていくだけだったということなのかもしれない。


 僕は、あの夜のことを忘れない。
 傍聴席から、法案成立に対して勇気を持ち、ノーを叫んだ男が取り押さえられ、猿ぐつわで口を塞がれ、国会審議の場を強制退去させられた事件を。
 権力は腐敗し、脆き平和を守る術を、僕は一人探し続けていた。



 うつろいゆく季節の中で、結局、特定秘密保護法案は強行採決された。
 楽しい筈のクリスマスは、何となく気分を曇らせるものとなり、それでもラジオからは、ディズニーシ―へ遊びに行こうと、資本主義による先導が繰り返されていた。
 誰ももう、その先導の匂いを嗅ぎ分ける感性を持たぬまま、愚民と言われても仕方のないような家畜のようなお利口さで、社会的洗脳の支配する街の中生きていた。




民衆のCHRISTMAS
Words & Music by Yoshinori Sugawara


季節 民衆のChristmas ほら 今年も
恋や愛の歌 街通り イルミネーション Oh Yeah
どこか遠い国の出来事かな Meltdown
Merry Christmas Wow Oh Oh Christmas
国会議事堂 シュプレヒコール デモ隊
国が戦争にひた走るこの平和 嘘さ
秘密法案反対 No Nukes 叫ぶよ
Merry Christmas Wow Oh Oh Christmas
愚かに人は傷つけ合うばかり
狂った毎日 嘆けば Wow Oh Oh Christmas


Merry Christmas for You 夜空のソリよ 幸せ運べ
星屑に祈る 輝く未来を夢見ている
Merry Christmas Wow Oh Oh Christmas


言論弾圧ならヒトラーファシズム
黙ってちゃ子供達 いつかは兵士
第二次大戦から学んだよ 九条
Merry Christmas Wow Oh Oh Christmas
愚直に愛を口にすればしらける
悲しい心が凍てつく Wow Oh Oh Christmas


Merry Christmas for You サンタクロース 願い叶えて
飯事の平和 ふざけてばかりで腐っている
Merry Christmas Wow Oh Oh Christmas



今宵 僕は歌ってる
安らかな愛を 清らかな夢を Wow Oh Oh 心を優しく包もう


Merry Christmas for You 夜空のソリよ 幸せ運べ
星屑に祈る 輝く未来を夢見ている
Merry Christmas Wow Oh Oh Christmas
一番大切な人想い Merry Christmas Wow Oh Oh Christmas