ONE´S HEART


 
 偶然のような出会いや、仲間達との束の間の談笑。


 梅雨空さえも、毎日泣きじゃくるには体力が間に合わないのか、当たり前に晴れ間も望めて、人生は歓びと悲しみに出会っては、また別れてゆく。
 この日、僕はまるで砂時計を逆さにしたように、懐かしい人との再会を果たす。
 ガラスの中の砂が、砂時計のくびれた部分を通り、元来た道を時間を巻き戻して移動する。



 人は誰しも時に流され、様々な表情を浮かべながら、人生という名の旅を続けている。
 もうかれこれ、二十年くらい前。
 思えば、御夫妻に出会ったのは、もうそんなに昔のことになるのだ。
 当時、特に奥様とはよく会っていた。
 縁あって、ストレッチクラスで一緒になったのが始まりだった。


 たぶん、二三年くらい特に一緒に過ごしたのだと思う。
 同じ街の住人だけれど、街の東西に互いの家が離れていて、あれからあまり会う機会もなくなって、次第に縁も薄れかけていた。
 だけど途中、奥様から僕にライブの話を振ってもらって、スタッフとしてお世話をしてもらっていたことや、元XJAPANのボーカルのTOSHIがうちでライブをやった時にも顔を出してくれていて、そんな幾つかの忘れ難い想い出を、時折、そっと思い浮かべてみることがあった。
 旦那様とは、確かストレッチクラスで一度会い、軽く挨拶をさせてもらったことを思い出す。
 僕がタレントさんか何かに似ていて、どこかで見た顔だと、爽やかに話し掛けて来てくれていた。


 そんな御夫妻との御縁だったのだけれど、今は街の東にプリント工房のお店を出され、夫婦で経営を切り盛りされ暮らしていた。
 僕は、六月末の日曜日であるこの日、久しぶりに御夫妻の顔を見ようと、このお店を訪ねたんだ。
 約一年くらい前に、奥様とフェイスブックで先に再会を果たしていて、イベントのお知らせメッセージが届く。
 それを見て、行ってみようと思った。








 人の縁とは本当に不思議なものだと思う。
 何にも偶然なんてなくて、必要な人とは必要な時期にちゃんと出会えるように思える。
 生き方が変わって、互いに離れてゆくこともあるだろう。
 必要があって、また再会することも。


 そして、長く付き合って来ると、昔よりも、もっとその人の心をまっすぐに受け止められるようなことだって、きっとあるのだろう。
 御夫妻との再会は、そんな感覚を伴い、僕の心に温かさや優しさという名の贈り物を、そっと届けてくれていた。
 店には、心を通い合わせているような仲間が集っていた。
 僕も、そんな輪の中に束の間加えてもらい、おまけにギターがあったのでライブまで聴いてもらうこととなり、素敵な時間を過ごせたことを感謝していた。
 また機会があれば、ライブをさせて欲しいといった話をして、店を出た午後。



 細かく話せば一杯あるけれど、手作り感覚を大切にされているであろう、御夫妻の経営されているプリント工房を、近くに暮らしている人がいたら、是非、また一度訪ねてみて欲しいなと思った。


 人が横に手を取り繋がっていく、これからの生き方。
 そんな物語が、街で開かれたこのお店から、お客さん達の人生に、今日もささやかな幸せとなり、届けられているのだろう。