一℃




 点と点とが交わり、線が生まれる。



 この巨大なマネーゲームを続ける社会の片隅では、まるで塵程度の存在に自分が思えて、心震えていた十代。
 時代は、随分変わってしまった。


 季節は当たり前に今日もうつろいを見せ、人の暮らしは流れ、時代は常に変わってゆく。
 ファッションは、僕らが何を求め、どんな価値観を手に入れようとしているのかを主張する鎧のようだったバブル期の熱を想い出す。
 便利さの追求は、僕ら一人一人を、社会というまっ白な画用紙の上で、粉々の砂粒みたいに分け隔てていったように思える。
 便利さは、他人の手を借りて、迷惑を掛けずとも、何か自分がこの世でちゃんと生きているかのような錯覚を、文明社会に生きる人々の心に深く刻み込んでいった。
 コンビニへ行けば、二十四時間、日常生活に欠かせない物資が調達出来る。
 別に店員に心を配る気持ちを持たなくとも、金でそれらの自由がやって来る時代だ。
 食べ物にだって、生産者を思い感謝なんてしなくとも、空腹は満たされ、何だか僕らは、自分の力で今日を生きているような誤った幻想を抱いて来た気がする。
 きっと、それが人間の心を堕落させて来たのだろう。



 僕らは、個体としては、この世界の片隅に散らばる塵屑程度の存在なのかもしれない。
 もしも、大震災等でライフラインが寸断されてしまったとしたら、金で買える命乞いなんてなくて、本当に自分の無力さにぶち当たるのだろう。
 何を毎日大きな顔をして自分は威張っていたのかという事実を知るのかもしれない。

 僕は歌う。
 この世界の片隅で、いまだにとてもちっぽけで無力に思えるような個体意識を纏う僕。
 点は点でしかなく、未来を描く線にはなれない気がする。
 それが、人間社会に生きる宿命だと思うし、だからこそ、点と点とを結びつけ、魔法の絵筆となるような接着剤が必要だろう。
 それを僕は愛と呼ぶ。


 愛は、人間を個体意識の窮屈さの中から連れ出し、精神的にも肉体的にも、きっと本当の意味での自由を授けてくれる奇跡の力だと思う。
 何故人は、愛を求めるのか。
 それは、きっと僕らが、元々一つの愛という名のエネルギー体として宇宙に存在していたからだと、僕の直感の声は答える。
 だから、この宇宙に於いて、点としての個体意識を経験している僕ら人間は、絶対的に他者との結合へと向かい、分裂という幻想を終わらせる為に人生を味わい、経験しているのだろう。
 僕らは、点として未来を描く線にはなれないのだ。
 そして、愛がなければ未来は死するのみだということが出来るように思える。
 地上に堕天使達のように点在する、人間の持つ個体意識。
 もう、僕らはそろそろ限界を迎えていたのだろう。
 極性が反転して、新たなる世界観の誕生が生まれようとしている息吹を、僕は強く感じていた。



 大震災に襲われて、コンビニも金も役に立たない世界を彷徨う。
 巨大企業の社長だろうが、一般大衆の一人だろうが、特別扱いなどはない、原子的な体験がそこにはあるのだろう。
 原子は、宇宙空間の中で全体と調和しながら命の輪を紡ぎ出す、高次の意識と繋がり、テレパシー能力に長けた生命活動を続けている気がする。
 本能的であり、本質的な姿がそこにあるのだろう。
 それとは一線を交え、文明は個体意識の中に人を強烈に閉じ込め、分裂と孤独という痛みを精神に背負わせ、真実や愛の姿を感じ取る能力自体を退化させて来たのだろう。


 一体僕らは何に脅えているというのだろう。
 科学万能の世界に生き、それでもいつも、人生に於ける心配の種は尽きることを知らず、個体意識の中で、世界に心を開くことが出来ずにいるのだろう。
 調和した宇宙の中で、全体に奉仕する存在としての自分の価値を忘れ、他者からも逆に求められていて、絶対的に必要な存在なのだという真実に対し、目を覆われている状態が、きっと、現在の世界に巻き起こっているカオスの正体だと思う。
 そして、それは本当は取るに足らない幻想で、点として分裂していると感じている孤独感がもたらす、たぶん気のせいに違いない。
 真実を知れば、人間が抱えている全ての分裂という名の痛みすらも、きっと蚊が刺した程度のことだということなのかもしれない。



 きっと、僕らはもっといい夢が見れる筈だ。
 もう、個体意識の中で悪戦苦闘する孤独な日々を、愛と調和の世界へと緩やかに、だけど確実に方向転換させていくべき極限を迎えていて、これから先の未来には、きっと人類史上の中でも稀な体験が待っている気がするんだ。
 そして、何よりもそうなっていくように今日を歌っていかなくちゃって思う。


 最も暗きは、夜明け前。
 そのことをいつも忘れず、たとえ今どんなに苦しみや痛みを抱えている人がいたとしても、どうか諦めずに人生を進んで欲しい。
 そして、僕も愛や夢を歌い続けているから。



 点としての個体意識を持つ僕は、夜の片隅で大きな夢を見ていた。
 それは、やがて世界が一つになり、人類が愛と許しを経験する時代についてだった。
 僕にとって、歌は他者と僕とを繋げてくれる接着剤みたいなものだろう。
 つまり、それは愛ということが出来るように思う。
 歌は愛。
 僕にとって、最高級のもの。
 歌は、未来を描く線に生まれ変わる。


 この世界を覆い尽くしていた氷河の時代は、氷点下で眠り続け、今次元は新たに上昇傾向を辿りながら、僕は愛と真心で今日も歌っている。









   きららカフェ フレンチトーストLIVE
   2015.10.3(SAT)


 SET LIST


  1 拍手に背中をおされて
  2 SHOUT
  3 TODAY
  4 微笑みからはじめよう
  5 HAPPY BIRTHDAY
  6 氷河
  7 さらば資本主義
  8 ワインレッドの心
  9 モンシロチョウ